Mahmalo’s blog

趣味、興味、留学、日常について語ります。

【留学】土砂降りで心が折れそうになった一年生初日②

台湾留学初日、時刻は17時頃。

 

雨の中の買い物と掃除を終えた私は疲れ果てていた。雨と汗に濡れた服をとりあえず着替えようと、スーツケースから服を取り出し、まだ実家の懐かしい洗剤の香りが残る服を取り出した。

その残り香に身を潜らせると、なんだか落ち着いた気がした。とりあえず一息つこうと思い、部屋の冷房をつけた。またあの、ホテルと同じかび臭い匂いがした。日を改めて、冷房も掃除しようと思った。

 

ベッドに腰掛け、しばらくその存在すら忘れていた携帯電話を取り出した。思えば、親には昨夜、無事に台湾についたことを伝えたっきり何も連絡していなかった。雨に打たれ汗をかき、スーツケースから取り出したばかりの服に残った香りに早くも郷愁を感じていた私は、親に一言連絡を入れようとも考えたが、うっかり弱音を吐いて、根性なしだとは思われたくないと言う謎のプライドが私に働きかけ、連絡するのをやめた。後からあっちから連絡してきたときに、何食わぬ顔をして「別に、大丈夫」とでも言ってやろうと、傲慢な決心をした。

 

携帯を覗いていると、ふとWi-Fiが部屋に飛んでいないことに気がついた。部屋には有線のネット回線が通っていて、学校のIDでログインすることで使えるようになる。ルーターをまだ買っていないので、無線で飛ばすことは今日中にはできないものの、ラップトップを経由して飛ばすことはできるはずだ。

そう思い、私は予め日本で買っておいたLANケーブルを取り出し、勉強机足元のコンセントの横にあった端子に繋げた。ラップトップを取り出し、こちらにもケーブルを繋げたところで、自動的にウィンドウが開いた。

ここで、入寮手続き時に寮のカウンターからもらった説明書の情報によれば、放っておけば勝手に学校のログインページが開くはずであったが、いくら放置しても開かない。

私はまた問題に直面した気持ちになり、「今日は散々だな」と思いつつ、他のブラウザやリロードを試してみた。が、一向にログインページは出現しない。

「説明書がその役割を果たしていないだと…」

台湾初日のブルーを説明書に吐露し、仕方なく助けを求めにまたカウンターへ降りて行った。

 

カウンターに降りると、受付の人が数人、お互いに今日の入寮ラッシュを乗り切ったことを称え合っていた。「明日も頑張ろう。」「もっと要領よくできるかな。」などと、既に1日の終わりのような雰囲気を醸し出しながら、談話していた。

「彼らに聞くのも気が引けるなあ」と思いつつ、とは言え自分の部屋のネット問題は解決したいので、思い切って数人のうちの一人(若い男性だった)に、「自分の部屋のネット回線にログインできないのですが…」と言ってみた。

「マジかよ、まだ何かあるのかよ」と言わんばかりの顔をした彼だったが、説明書通りにやってもうまくいかないことを理解し、真剣に打開策を考えてくれた。隣に座っていた受付の女性が、「『彼女』を呼んだらどう?」と提案した。私の対応をしてくれていた男性も、「『彼女』に聞いたほうがいいかも」といい、おもむろに受話器を耳にあて、『彼女』を呼び出した。

「ちょっと待ってたら助っ人が来るから、その人に助けてもらって!」

そう言って彼は、困惑する私を残して談話に戻って行った。

 

しばらくすると『彼女』は現れた。

一般的かつ平凡な日本社会で育った私は、彼女をみてこの世界の広さを思い知ったのであった。

彼女は白人の女性で、私より背が高かった。(筆者は179cm)

耳には数え切れないほどのピアスを開け、鼻ピアスすらつけていた。

そして何より彼女は、私が(私こそが)見慣れた日本の国民的アニメ『ポケットモンスターピカチュウ柄のオーバーオールを着ていた。

(どこに売ってるんだよそれ…)

 

彼女は大股で一度私を素通りし、カウンターで事情を聞いた後、私の方を向いた。

「じゃ、部屋までいこか。大抵のことは何とかなるから。」

彼女はとてつもなく流暢な中国語で私にそう言った。私は言われるがまま案内した。

エレベーターに乗り、二人きりになると彼女は話しかけてきた。

「日本人?ポケモン好き?私は好き。特にピカチュウが。あなたは何のポケモンが好き?って聞いても、ポケモンの中国語の名前がわからないか。ピカチュウだけ妙に当て字じゃない?皮卡丘つって。」

彼女は私の部屋がある5階に着くまで、一方的に話し続けた。私は相槌を打つしかなかった。

 

部屋の前に着き、ドアを開けた。

「女子寮とドアの色が違うのね。初めて知った。」

と言いながら私の部屋に入っていった彼女は、私のラップトップを見るなり飛びついた。

「ネットが繋がらないんだよね?ログインもまだ?あーなるほど。ここの設定だ……よし、これで行けるでしょ。」

と、私から必要なことを聞き出した彼女は、いとも簡単にログイン画面までたどり着いた。

「じゃ、できたから帰るね」

と言い、背の高いピカチュウは手を振りながら帰って行った。

「あの、ありがとうございました。」

と私は一礼して、彼女の背中を見送ったのであった。彼女のオーバーオールにはピカチュウの尻尾もついていた。

 

ログインも無事済ませ、パソコンで無線を飛ばして携帯にも繋いだ私は、これで何とか一段落だろうと、再度ベッドに腰掛けた。冷房からは相変わらず冷たくかび臭い空気が流れていた。時刻は18時近かった。

 

(続く)